- World Review
- 2021年9月17日
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5EYES:英連邦諜報機関の策動

◇松野仁貞のワールドリポート
英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの英連邦加盟国と米国による諜報機関「ファイブアイズ」の動きが活発化している。アジア太平洋地域での中国の軍事行動を封じ込めるのが狙いだ。
ファイブアイズは、UKUSA協定(UKUSAは「United Kingdom‐United States of America」の略)に基づいて発足した。同協定は、SIGINT(シギント)(通信・電波の傍受による情報収集活動)に関する多国間協定。現在の加盟国は米国・英国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドの5か国でファイブ・アイズと呼ばれている。
同協定の元になったのは、1946年に米英間で締結されたBRUSA(ブルーサ、Britain‐United States of America agreement)協定。1954年に現名称に改称。カナダは1948年、オーストラリアとニュージーランドは1956年に加盟した。
ファイブ・アイズは、「エシュロン」と呼ばれている通信傍受網で電話やメールなどの情報を収集、分析しているとされる。参加国の情報機関は相互に傍受施設などを共同活用。長らく公式に存在を認めていなかったが、2010年の関連文書の公開で活動の一端が明らかになった。
ポルトガルの元副首相アントニオ・ビトリーノ氏は「神の存在もエシュロンの存在も信じるが、どちらも見たことがない」と評した。
ファイブアイズには、米国家安全保障局 (NSA)、英国政府通信本部 (GCHQ)、カナダ通信保安局 (CSE)、オーストラリア信号総局 (ASD)、ニュージーランド 政府通信保安局 (GCSB)が参画。各国情報機関は相互に傍受施設を共同活用するなどして諜報活動を展開している。
ファイブアイズのこれまでの活動は主にイスラム過激派など世界中のテロ組織、テロリストに絞られてきたが、最近の中国の動向を危険視してインド太平洋地域での中国封じ込めの強化に乗り出している。
日本はファイブアイズの正式メンバーではなく、「米国の付属」(外交筋)との位置づけ。英国政府に対して河野太郎前防衛相が「日本を交えてシックスアイズに」と申し入れたが英国政府は歯牙にもかけなかったという。
日本の諜報システムは各国に信頼されておらず「日本を正式メンバーにすれば逆に情報漏れと混乱が懸念される」(在京外交筋)との評価。情報筋は「米国にしてみれば日本の領土を適宜使用できれば充分で、機密情報の共有などあり得ない」と語る。
国際情報筋は「マイナンバー制度やデジタル庁の設置などはファイブアイズ向けの政策。日本は国民の個人情報を含む情報プラットフォームを丸ごとファイブアイズに差し出そうとしている。とても独立国とは思えない」と指摘する。
中国封じ込めの顕著な動きとして9月16日、ファイブアイズ加盟国のボリス・ジョンソン英首相、スコット・モリソン豪首相、ジョー・バイデン米大統領は共同声明で「AUKUS(オーカス)」というファイブアイズ内での新たな安全保障の枠組みを明らかにした。
AUKUSは、オーストラリア海軍による攻撃型原子力潜水艦の製造と保有を英米両国が支援するというのが主な目的。ジョンソン英首相は「オーストラリアの原子力潜水艦が展開されることでインド太平洋地域での安全保障が強化される」と述べた。中国包囲網強化のための人工知能(AI)や量子技術、サイバー関連もAUKUSの最重要協力対象分野だ。
ファイブアイズはインド、韓国、ドイツなどに加盟を打診しているが、各国共に正式加盟には消極的という。「諜報領域での共同作業は独立国にとって危機管理上の大きなリスクを抱え込むことになる」と国際情報筋は解説する。
こうした流れの中、AUKUS共同声明に合わせて訪韓した中国の王毅外相は「韓国は米国寄りなのか、中国寄りなのか、あなたがたが自分自身に聞いてみるべきだ」述べて韓国の動きを強く牽制。英米主導の機密情報共有同盟ファイブ・アイズについて「完全に冷戦時代の産物。すでに時代遅れだ」と批判した。
(World Review 編集長 松野仁貞)
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