◇松野仁貞のワールドリポート

 犯罪容疑者の中国本土への引き渡しを認める「逃亡犯条例」の改正案に対する大規模な抗議が発端だった香港のデモが複雑な様相を示し始めた。デモは中国政府に対する香港の民主化要求の色合いが濃くなり、民主化要求デモの参加者が覆面集団に襲われる事態に発展。香港野党・民主派は襲撃グループは香港政庁と結託した香港マフィアの犯行と非難した。一方、中国政府は香港デモを煽動しているのは「米当局者」との見解を表明。香港の中国政府出先機関が襲撃されたことに対して「すべての中国人に対する侮辱。一国二制度の限界を超えた」と怒りを表明しており、中国政府の直接介入の危険をはらんで緊迫と混迷の度合いを増している。(World Review 編集長 松野仁貞)


 香港のデモは、参加者の一部が香港政庁の建物に乱入し英国統治時代の香港旗を掲げるなどの過激な行動がみられたが、概ね平穏に推移していた。

 それが一変したのは、7月21日。香港島の大通りで行われた43万人(主催者発表)が参加したデモから離脱した約1000人の若者が中国政府の香港出先機関である 「香港連絡弁公室」 の前に集結して抗議活動を行った。一連のデモで中国政府に直接矛先を向けたのは初めて。若者たちは、建物に卵やガラス瓶を投げつけたり、スプレーで壁にスローガンを落書きしたりした。さらに建物に設置してあった中国の国章に黒い液体をかけて汚し=写真、共同通信=中国政府の逆鱗に触れた。



  中国の習近平指導部は国章侮辱でメンツをつぶされた形で、中国政府は「中央政府の権威に公然と挑戦する行為で、絶対に容認できない」「一国二制度の限界を超えた」などと痛烈に批判。 香港連絡弁公室の王志民主任は「国家主権と安全の尊厳に挑戦し、中国人全ての感情を傷つけた」としたうえで「不法な暴徒の行為」と若者らを強く非難した。

 こうした中で起きたのが香港地下鉄駅でのデモ参加者襲撃事件。共同通信によると、白いTシャツにマスク姿の集団が、香港連絡弁公室が標的にされたのと同じ日の深夜、 中国本土に接する香港・新界地区の地下鉄駅でデモ参加者とみられる黒い服を着た乗客らを襲撃し、45人が負傷、うち1人が重体となった。 駅構内や停車した電車内で、黒い服の市民らを棒や傘などで次々と殴った。民主派の立法会(議会)議員や、記者、デモ不参加の市民も被害に遭ったという。

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 襲撃された民主派のラム・チュクティン議員は「襲撃グループは『三合会』」とした上で香港政府当局との関連を強く示唆した。 三合会は香港映画「インファナル・アフェア(Infernal Affairs)」で描かれている香港マフィアの総称。香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストによると、三合会には 「14K」「新義安」「和勝和」などの組織があり、 人口約730万人の香港に10万人以上の三合会会員がいるという。

 香港野党・民主派はこれまでも過去の反体制派襲撃事件などのたびに香港政庁と三合会とのつながりを指摘、香港政庁は否定し続けてきたが、今回の事件後、サウス・チャイナ・モーニング・ポストの取材に対して、香港警察関係者は「襲撃犯の中に14Kや和勝和のメンバーが含まれている可能性がある」と初めて語ったという。

 6週間以上もデモを収束させられず、中国国章毀損という事態を招いた香港政庁。「中国政府からの圧力の中で、以前から密接な関係にあった三合会を使って、デモ参加者への威嚇、見せしめにした」と香港外交筋は語る。

 「香港のデモは中国による一国二制度の試金石。中国政府の直接関与なしに平和的収束を図ることが至上命題。習近平指導部は対応に苦慮している」と別の外交筋。こうした手詰まり感を裏付けるように、 中国外務省の華春瑩報道官は7月23日の会見で、香港で続いている「逃亡犯条例」改正案に反対するデモについて、背後に米当局者がいると主張し、関与を止めるよう要求した。

 「反政府活動などで敵対国の諜報機関が暗躍するというのは常套手段。今回も米CIAや英MI6などの工作員が現地でデモを煽動している可能性はある」と国際治安筋。また同筋は「中国の自作自演の可能性も排除できない」と述べ、「世界が注視する中で、自らが筋書きを書いた香港の騒乱を直接介入せずに収束させたという実績が残れば、一国二制度の成果をアピールすることができる」との見方も示した。

 事実は小説より奇なり。「インファナル・アフェア(Infernal Affairs)」を凌ぐ暴力と謀略の様相を見せ始めた香港デモ。自由と民主化を求める香港市民にとって、今年は長く熱い夏になりそうだ。