◇市川俊治の「海外生活事典」



 日本に住んでいると年金は強制加入です。会社に勤務される方は厚生年金、それ以外の方は国民年金に加入します。海外に居住するようになると、加入は任意となります。その為海外に移住する際、将来日本の年金に再加入して加入25年の受給資格を取得することもないだろうということで、それまで加入してきた年金を一時金で受取(現在制度は廃止)られる方が多数いらっしゃいました。


 その後時代は変わり、今では海外にお住いの方は日本の年金が掛け捨てになってしまうことは殆ど皆無と言ってよいほどになりました。その最大の理由は、少しでも無年金者を減らし年金受給者を増やすために2017年8月から受給資格が加入25年から10年に短縮されたことです。

 加えて海外にお住いの方は「幸せの方程式」を活用できるからです。その方程式とは、「日本の年金加入期間」+「カラ期間」+「外国年金加入期間」が10年以上であれば日本の年金の受給資格を得ることが出来ます。

 注意点は(1)この3つの期間は重複することはできません(2)年金額はあくまでも「日本の年金加入期間」分だけが反映されます(3)遺族年金の受給資格はこれまで通り加入25年が必要です。ですからできる限り受給資格期間25年以上を幸せの方程式を活用して目指すことをお勧めします。


 カラ期間(=合算対象期間)とは日本国籍で20歳から60歳まで海外に在住していた期間のことで、年金額には反映しないという意味でカラ期間と言います。このカラ期間をまず「日本の年金加入期間」に加算して受給資格の有無が算定されます。カラ期間の証明方法で一番簡単なのは戸籍の附表です。日本を出国するときに転出届を提出しておけばその記録が附表に掲載されます。


 次に「外国年金加入期間」です。日本では社会保障協定が2000年2月ドイツを皮切りに現在20か国との間で発効済みです(2020年7月1日現在)。協定の目的は①社会保障制度の2重加入防止②年金の掛け捨て防止の為です。この掛け捨て防止策とは、お互いの国の年金加入期間を年金受給資格算定上、期間通算できるようにすることで、年金を受給し易くして掛け捨てを防止しようとするものです。つまり滞在国の年金加入期間を日本の年金加入期間に加算して10年以上になれば日本の年金が受給できます。逆に滞在国の年金加入期間に日本の年金加入期間を加算して滞在国の年金受給資格期間をクリアーすれば滞在国の年金も受給できます。但し発効済み20か国の内4か国(英国、韓国、イタリア、中国)はこの期間通算の適用外ですのでご注意ください。


 具体例として米国の場合を取り上げます。

 (1)日本で5年間厚生年金加入されたAさんが55歳で渡米され58歳で米国籍を取得された場合、米国で働かれた場合と働かれなかった場合を方程式に当てはめて比較してみます。

日本の年金加入期間は5年間、カラ期間は55歳から57歳までの2年間で日本の年金受給資格算定期間は合計7年となります。もしAさんが米国で勤務され米国年金に3年以上加入されていればその3年を加えることにより10年以上加入となり受給資格を満たします。勤務されない場合は7年止まりで日本の年金の受給資格は取得できません。またAさんの米国での勤務期間が5年を超えればその時点で日本の年金加入期間5年と米国の年金加入期間5年を足して10年(40クレジット)以上となり米国年金の受給資格も獲得できます。米国年金受給資格の算定上、日米の年金加入期間の通算を行う場合は「カラ期間」は使えません。

 (2)米国で働いていた夫の突然の死去に伴う遺族年金受給の例です。

夫は日本の厚生年金に8年加入後渡米。米国年金は20年加入済みで勤務中に死亡しました。そこで幸せの方程式で8年+20年=28年となり日本の遺族年金の受給資格である年金加入期間25年をクリアーし8年分の遺族年金を受給できました。


 海外に転出されると大半の方は、日本の年金とは縁遠くなってしまいます。しかし、年金額を増やしたい場合は、日本国籍であれば海外から任意加入の国民年金に加入することが出来ます。国民年金はその費用の半分は日本国が負担しており非常に有利な制度です。また、日本の年金は受給条件さえ満たせば国籍に関係なく受け取ることが出来ます。年金は老後の「幸せの黄色いハンカチ」です。制度をよく理解して備えられることをお勧めします。

(海外年金相談センター代表 市川俊治)


【市川俊治 Shunji ICHIKAWA】38年間の民間企業勤務(ニューヨーク・シカゴ駐在8年間)後、外務省改革の一環として始まった領事シニアボランテイア制度の第1期生としてニューヨーク総領事館、サンフランシスコ総領事館で各3年計6年間勤務。官と民の経験・知識を基に「海外年金相談センター」を設立し海外に在住する人々の「年金・国籍・老後の日本帰国」の相談などをE-Mail、電話等で受けている。